逗子市いじめ防止基本方針が策定
令和3年第3回定例会が9月30日閉会しました。今定例会ではいじめ問題に対する3つの条例が制定され、付随して、逗子市いじめ防止基本方針が策定されました。主たる意見として、私は本会議において、討論を行いましたので、以下討論内容を抜粋します。
逗子市いじめ問題対策連絡協議会条例、逗子市いじめ問題調査委員会条例、逗子市いじめ問題再調査委員会条例の制定について 賛成の立場から討論に参加する。本条例は、いじめ防止対策推進法の施行に伴い、地方自治体に対して、各条例および いじめ防止基本方針の策定に努めることが規定されたことによる。付随して策定される逗子市いじめ防止基本方針について、意見を述べる。
まず基本的な考え方である、いじめの防止について、本基本方針に記されている「道徳心や規範意識を高める教育を通じて」の文言について。この文言には、いじめ対策に道徳教育が欠かせないという概念があり、懸念する。いじめの防止=道徳教育という相関性には疑問。2018年から道徳の授業が教科化しているが、そのきっかけは大津市のいじめ自殺事件である。しかし、実際、事件が起きた大津市の中学校は、文科省の「道徳教育実践推進事業」の指定校であったこと。現在まで道徳教育がいじめ対策に有効であるという論拠は示されておらず、道徳をしっかりやらないからいじめが起こるというのは、感覚的な精神論であると言わざるを得ない。大津市の中学校の自殺事件の第三者報告書にはいじめ防止教育の限界という節を設け、道徳授業に偏重することのない、環境是正こそが必要であることを提言している。
道徳の授業において、一定の規範を教育に持ち込むことは、政治的利用をされれば、危険な結果を生むことは歴史が証明している。規範意識より、他文化や障害、マイノリティへの理解など、違う価値観を排除せず、異なる他者との共生をいかにして、人知で構築していくかが重要。安易にいじめの問題と道徳の解決を直結せず、広い視点でいじめの起きる傾向の検証を重ねながら、エビデンスに基づく結果に照らし、具体的な解決手段を実践すべきである。いじめ対策推進法を受けて、2018年総務省「いじめ防止対策の推進に関する調査結果報告書」が示されていることから、これを受けて提言する。
相談体制について 相談体制を整備します とあるが、相談の効果は、相談したことで結果的にいじめが改善したとの回答は、7割近くにのぼる。誰かに相談すれば現状が変わるかもしれないという認識が共有され、相談に躊躇することなく、誰にも相談できないと思わせない環境因子を取り除くことが多くの救いに繋がる。得てして子供は自分のことで親に心配や苦労をかけてはいけないと思っているが、その思い以上に、どんなことがあっても、守り抜いていきたいと親もまた子を思っている。それでも、時に、取り換えしがつかない事態は起こる。相談体制は保護者・学校のみに任せず、行政が地域社会と連携し、積極的にアクセスのアンテナを張り、複数の相談体制とあきらめの障壁を取り去り、全力で相談の可能性に繋げることを求める。
次にインターネットを通じて行われるいじめについては、ネットを介入したいじめを受けた人の9割が同時に、他のいじめも受けているという調査結果が出ており、ネット上のいじめだけを受ける人はほとんどいないということが確認されている。このことから、ネットリテラシーを教育すれば、ネットを介したいじめが改善できるという単純な構造ではないことが見える。
重大事態について 重篤ないじめだけを受ける人は少数であり、いじめが軽易なものから重篤なものへとエスカレートし、軽易ないじめから始まり、途中からネットいじめが加わる。早期発見と早期解決が重要なのは言うまでもない。
また重大事態の調査報告書にはすでに自治体間の取り組みの差が大きいことが、明らかになっている。報告書は有用な共有財産であるにも関わらず、実にこれまでの重大事態事例のうち、6割以上の報告書が非公表となっているなどの問題や重大事態の調査結果において報告書が作成されていないケースが18%に上る。重大事態の調査結果報告書は調査開始をもって、遅滞なく、すべての重大事態に報告書の作成を義務づけなければならないもの。さらに、公表について、公表の是非は被害者と家族の意志に反しないものであることに加え、調査報告書の情報公開が申請された場合、逗子市情報公開条例と運営審査会に最終決定権限が委ねられる体制が必然。最後に再調査員委員会の実施について、実施権限は市長判断によるものとされているが、再調査委員会の開催を求める被害者および家族の意志に反し、再調査委員会が実施されないという決定なきよう、教育委員会との政治的作用を断絶し、再調査委員会の独立性を担保し、実施された場合には、プライバシー権と報道への配慮、誠実さ、慎重さを求めておく。
以上、各本条例の施行にあたり、その元となるいじめ対策推進法第一条は、いじめは、いじめを受けた児童等の教育を受ける権利を著しく侵害することに鑑み、児童の尊厳を保持するため、地方公共団体の責務を明らかにすることで、防止のための対策を総合的かつ効果的に推進すること。また第二条はいじめにあたるか否かの判断は、被害者側の立場に立って行うことが明記されている。このことを揺るがない法理論と据え、一層の人権擁護を願うものである。