雇用から障がい者福祉を考える
2013年4月から民間企業に対する障がい者の法定雇用率(表①参照)が、これまでの1.8%から2.0%に引き上げられました。法定雇用率とは、従業員数が一定以上の民間企業や国、地方自治体などに義務づけられた、障がい者雇用の最低比率を示します。法定雇用率2.36%の障害者雇用職場改善好事例として、厚生労働大臣賞を受賞した横浜高島屋店を見学させて頂き、ジョブコーチ(職場適応援助者:※①参照)の大橋さんにお話を伺ってきました。
▼大切にすべきは障がい者の自己決定と自己選択
現在、大橋さん率いる総務部ワーキングチームには、身体障がい者1人、精神障がい者1人、知的障がい者11人が働いています。職場は、自己決定を重視した環境が設定され、各自の仕事は、優先度の中からスケジュールボードに自分で予定を埋めていきます。障がい者の働く現場は、仕事を指示する→実直にこなす、のパターンで成り立っていることが多いと思われますが、こちらの現場では自己決定を始め、目標達成、効率や生産性の向上など、企業の使命と責任を担っている事が特徴です。また、誇りをもって働く彼らに共通することは、趣味や夢があり、余暇活動及びお金を使う楽しみを知っている事です。余暇があるからこそ仕事に対するモチベーションが高まると大橋さんは話します。
障がい者の福祉や生活を考える時に大事なことは、単純に世話をし、保護するという視点ではなく、自己選択と自己決定、幅広い経験を促し、一人の人間として当たり前の生活を送らせようという視点こそが社会支援のあり方だと思います。そこに至るためには、多くの訓練や失敗を通じて、社会が求めている姿に障がい者も向かっていくための努力が必要で、双方の歩みよりが柱となります。
▼ジョブコーチ認定数は現在、全国で千人
法定雇用率が引き上げられたからといって、すぐに障がい者雇用につながるとは言えません。障がいの内容は個人差があり、目的は理解していても障がい者を雇用する側の体制が不可欠になります。前記の高島屋のように、ジョブコーチを配置している企業はごくわずかです(平成21年度末のジョブコーチ数は1061人。厚生労働省)。
しかし、ジョブコーチだけが障がい者雇用を支えているわけではありません。もっと広く支援の形を考えるべきで、誰もが支援者になり得ます。鎌倉市でも、障がい者の保護者を中心としたジョブサポーターを養成する事業も始まっています。
さらに、福祉の現場で障がい者と関わる事だけではなく、企業を知る上で、法定雇用率を達成しているかどうかも判断材料にし、社会的モラルのある企業の製品を利用することも間接的な障がい者支援に繋がっていると言えます。法律の改正をきっかけに、そうした動きが生まれていくことを強く望みます。
表①
事業主区分 |
改正前 |
平成25年4月1日以降 |
民間企業 |
1.8% ⇒ |
2.0% |
国、地方公共団体等 |
2.1% ⇒ |
2.3% |
都道府県等の教育委員会 |
2.0% ⇒ |
2.2% |
※①
ジョブコーチは、障害者が一般の職場で働くことを実現するため、障害者と企業の双方を支援する就労支援の専門職を指す言葉である。1986年に米国で制度化され、日本には1980年代の終わり頃に紹介された。ジョブコーチには、職場で障害者に仕事を教えることを主な役割とする狭義のものと、アセスメントからフォローアップに至る就労支援プロセス全体を担う広義の理解があるが、今日では広義のジョブコーチの重要性が認識されてきている。一般に、広義のジョブコーチが行う支援には以下の内容及びプロセスが含まれる。
①障害のある人のアセスメント、②職場開拓、③職場のアセスメント、④ジョブマッチングの調整、⑤仕事の支援、⑥ナチュラルサポートの形成、⑦フェイディング、⑧フォローアップ
平成14年度に厚生労働省は、「職場適応援助者(ジョブコーチ)」事業を開始し、平成17年10月に、「職場適応援助者助成金」が創設され今日に至っている。この制度の下では、①障害者職業センターに所属するジョブコーチ、②民間社会福祉法人等に所属するジョブコーチ(第1号職場適応援助者)、③障害者を雇用する企業に所属するジョブコーチ(第2号職場適応援助者)、という3種類のジョブコーチがあるが、②及び③が助成金制度となったことにより、身近な地域において就労支援機能を果たす社会福祉法人等がジョブコーチ支援を行うこと、障害者を雇用する企業がジョブコーチを自ら配置し企業内で必要な援助を行うことが期待されている。